「8020運動」という言葉を耳にされたことはあるでしょうか。これは「80歳で20本以上の歯を残そう」という取り組みのこと。高齢者になっても歯の喪失が10本以下であれば、食生活に大きな支障をきたすことはないという研究に基づいています。つまり、20本以上の歯を残すことが、QOLを損なわずに豊かな生涯を送るためのひとつの大きな条件となるのです。そのためには、虫歯の予防が欠かせないことは言うまでもありません。そこで今回は、虫歯の発生のメカニズムやその予防法をご紹介したいと思います。

虫歯の発生メカニズム

歯では虫歯原因菌が砂糖を分解して非水溶性のグルカンを生成し、このグルカンが歯の表面に強固に付着します。その凝集体がプラークです。食後8時間程度でプラークができるといわれ、プラーク1mgのなかには、およそ300種類・1億個もの細菌が存在しています。

食後、口の中はミュータンス菌(虫歯菌)や乳酸菌などのはたらきで酸性になり、歯のカルシウムを溶かし始めます。歯のカルシウムが溶け出ることを脱灰といいます。ごく表面だけ脱灰が起こった場合や短時間だけ脱灰が起きた場合は、すぐにプラークを取り除けば、歯は再石灰化し自然に修復することもあります。しかし、プラークが長期間ついたままであったり、歯の奥深くまで脱灰が進んでしまった場合、この自然修復作用が妨げられます。このように歯の脱灰が元に戻らないところまで進んでしまい、歯に穴を開け始めた状態が虫歯(う歯)です。とくに砂糖の摂取は、プラークの形成と酸の産生をより促進させ、虫歯のできやすい状態を作ります。

虫歯の予防法

虫歯の要因は、「歯の質」「細菌(虫歯原因菌)」「食物(砂糖)」の3つにまとめることができます。虫歯の予防法は、それぞれの要因に対して「フッ化物応用とシーラント」「歯みがきの励行」「糖分を含む食品の摂取頻度の制限」となります。

従来から行われてきた予防法は、「歯みがきの励行」「糖分を含む食品の摂取頻度の制限」です。これらは正しく行えばある程度の効果は期待できるものと思われます。

一方、フッ化物の利用による虫歯予防は、歯質の虫歯抵抗性を高めて虫歯を予防する方法です。虫歯抵抗性とは、耐酸性の獲得・結晶性の向上・再石灰化の促進のことです。

全身応用(経口的に摂取されたフッ化物を歯の形成期にエナメル質に作用させる)と局所応用(フッ化物を直接歯面に作用させる)があり、有効性・安全性に関する証拠が確認されています。

フッ化物応用の種類

・全身応用
経口的に摂取され消化管で吸収されたフッ化物が、歯の形成期にエナメル質に取り込まれ、虫歯抵抗性の高い歯が形成されます。同時に萌出後の歯の表面にも直接フッ化物が作用します。WF・フッ化物錠剤・フッ化物添加食塩・フッ化物添加ミルクが含まれています。

・局所応用
萌出後の歯面に直接フッ化物を作用させる方法です。フッ化物歯面塗布・フッ化物洗口・フッ化物配合歯磨材が含まれます。

フッ化物応用の虫歯予防メカニズム

・脱灰抑制作用
エナメル質結晶内に取り込まれたフッ化物によって、エナメル質の一部がハイドロキシアパタイト(FHAP)として存在し、酸抵抗性を持ちます。

・再石灰化促進作用
フッ化物が存在することで、脱灰エナメル質中のブルーシャイトなどリン酸カルシウムの反応性が高まり、HAPに転化し、さらにFHAPやFAPに変化していきます。このFHAPやFAPは、HAPやその他のリン酸カルシウムと比較して「溶解度積」が小さいので、CaやPの濃度が比較的低い条件下でも析出しやすくなります。

・プラーク(歯垢)細菌の酸産生の抑制
フッ化物がプラーク中に取り込まれると、細菌の代謝系酵素を阻害して酸産生を抑制します。同時に細胞膜の透過性を高めて細胞外にフッ化物を出してプラークのフッ化物濃度を高めます。細菌が糖を発酵させて酸を産生すると、プラーク中のフッ化物が脱灰に対して抑制的に働きます。

まとめ

フッ化物の利用には、フッ化物配合歯磨剤を使用する方法、歯科医院などでフッ化物を歯面塗布する方法、フッ化ナトリウム溶液でうがいをするフッ化物洗口などがあります。毎日の歯みがきにフッ化物配合歯磨剤を使用し、定期的に歯科医院でフッ化物歯面塗布を受けるなどの取り組みを行うことで、数十年後の歯の健康状態は大きく変わってくるはずです。

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